【column】 フィラリアって なんだろう?
2022.11.11
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フィラリア?何それ?聞いたことない、と思われる方も多いかもしれません。
フィラリアとは犬糸状虫のことで、これが感染することによって起こる寄生虫疾患を「フィラリア症」、と呼んでいます。
「犬糸状虫」ということは猫は関係ないように思われますが、実は猫にも感染することがわかっており、感染すると慢性的に咳が出たり、突発的に呼吸困難に陥ったり、場合によっては突然死することもある恐ろしい感染症です。
ぜひこの機会に猫のフィラリア症について知っていただければと思います。
フィラリアは狭い組織の隙間や脈管の中に寄生し、細く乳白色のそうめん状で、メスが25〜30cm、オスが12〜18cmとメスの方が大きいのが特徴です。
フィラリアの好適終宿主はイヌ科の動物で、犬やコヨーテ、キツネなどに寄生します。
そういった終宿主の体内でフィラリアのメスは子宮内で卵を孵化させ、ミクロフィラリア(第1期幼虫)と言われる幼虫を放出します。
ミクロフィラリアが成虫になるためには、蚊の存在が不可欠です。ミクロフィラリアを含んだ血液を吸血した蚊の体内で、ミクロフィラリアは10日〜14日以内に2回脱皮して第3期幼虫となります。 この蚊が猫を吸血すると、吸血時に第3期幼虫が皮下組織に侵入します。3〜4日以内に脱皮して第4期幼虫となると、幼虫は体内を移動しながら2ヶ月以上かけて未成熟虫になり、末梢血管に侵入して肺動脈まで達します。
犬の場合、未成熟虫のほとんどが成熟虫となり、その後5〜7年生存しますが、非好適終宿主である猫の場合、ほとんどの未成熟虫が肺動脈に到着した直後に死亡します。万が一成熟虫になったとしてもその数は非常に限られています。
現在日本に生息している蚊のうち、フィラリアを媒介することが確認されているかは16種です。その中で媒介能力はさほど高くないものの、数の多さで危険視されているのはアカイエカ、ヒトスジシマカなどです。
因みにミクロフィラリアが、蚊の体内で成熟する日数は気温に依存しており、28℃で10日間、18℃で30日間を要し、平均気温が14℃以下では成熟できないことがわかっています。
フィラリアに感染するとどんな症状が見られるの?
猫は基本的にフィラリアの感染に抵抗性がありますが、食欲不振や体重減少、咳や嘔吐下痢、神経症状などが見られることがあります。
中でも、慢性の咳、突発的な呼吸困難などが特徴的と言えます。
ただ、時に突然の虚脱、発作、喀血、呼吸困難から死に至るケースも確認されており、油断は禁物です。
フィラリアに感染しているかどうかを検査するには、犬で使用している抗原検査キットを使用することもできますが、感度は50〜85%に止まり、この検査で陰性だったとしてもフィラリア感染を完全に否定できません。胸部レントゲン検査、エコー検査などでさらに検査を進めることが必要です。
万が一フィラリアに感染していることが分かった場合、犬のフィラリア治療に使う薬剤はほとんど使用できません。支持療法としてステロイド剤を使っていきながら、その他に出ている症状に対して対症療法を行っていくしかありません。
予防ってできるの?
猫のフィラリア予防薬としては、マクロライド系という抗生剤のスポット剤が販売されており、毎月1回塗布することでフィラリア症を安全かつ100%予防することができます。
予防の期間は蚊が出始めてから30日後までに開始し、蚊が見られなくなって30日後まで行います。
温暖化により、蚊が出始める時期が早くなっていますので、各地域で発表される蚊の飛来情報を確認しながら、予防の期間をかかりつけの先生と相談しましょう。
完全室内飼いでも蚊が家の中に入ってくることは避けられません。
一旦感染すると犬のフィラリア症以上に治療が難しいことを考慮すると、徹底的に予防をしていきたいですね。
Written by
監修医 小林 充子 先生
麻布大学獣医学部を卒業。在学中は国立保険医療科学院のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行う。2010年に目黒区駒場にてキャフェリエペットクリニックを開業。一頭一頭のタイプに合ったオーダーメイドの対応を信条に総合診療を行う。