【column】 食欲の秋、到来! 猫の味覚を知る
2022.10.11
|
食欲の秋、到来!
実りの季節であるこの時期は、旬を迎えた美味しいものがたくさん収穫されるので、ついつい食べ過ぎてしまいますが、味にうるさい、とされる猫の「味覚」、どうやって決まるのでしょう?
「味」は舌の上にある味蕾細胞が信号を受け取ることで発現します。ヒトにはこの味蕾細胞がおよそ10000個存在していますが、猫には約500個程度しか存在していません。
猫は「酸味」「苦味」「旨味」をよく感じ、「塩味」は多少、「甘味」は全く感じることはできません。
「酸味」と「苦味」は猫が最も不得手とする味覚です。酸味は腐敗物を、苦味は毒物の指標となります。
もともと猫は、ネズミや小鳥など小さな獲物を狩り、その後すぐに食べてしまうため、腐敗したものを口にすることはありませんでした。そのため腐敗を示す酸味は苦手なのです。
また基本的に苦味=毒物と認識されており、苦味を感じる味蕾細胞は舌の前方に集中しています。そのため、苦味を感じるものが口の中に入った瞬間吐き出してしまいます。
また、「旨味」に関しては面白いことがわかっています。
ヒトはグルタミン酸とL–アスパラギン酸の2つだけが旨味成分とされていますが、猫にとっての旨味成分はプロリン、システイン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、アラニンの6種類です。
プロリンは豚のゼラチンに、システインはレバー、魚類、鶏卵に、オルニチンはシジミやチーズに、リジンは肉や魚介類に、ヒスチジンはマグロやカツオなどの赤身の魚に、アラニンはレバー、シジミやアサリなどにそれぞれ多く含まれています。
猫が魚を好むわけですね。
「嗜好性」ってどうやって決まるの?
猫は好き嫌いが多い、すなわち嗜好性の強い動物、と認識されていますが、その嗜好性はいつ頃決まっていくのでしょう?
母猫に育てられる子猫は産まれてすぐ母乳を飲み始めます。
様々な理由で母猫の母乳が飲めない子猫は、人工哺乳で育てることになりますが、子猫用ミルクを嫌がることはありません。
歯が生え始め、離乳食を食べる頃になると、少しずつ好き嫌いが出てきます。そして離乳期に入る生後3週目から8週目くらいまでに食べたものが、その後の嗜好性を左右すると言われています。
この時期に、ムース状、液状、フレーク状、ドライフードなど、様々な形態かつ様々な原材料のご飯を与えると、その後も色々なものに興味を持って食べる傾向があります。
だからと言って我々が食べるものをあげる必要はなく、子猫用のご飯のバリエーションを増やしてあげるだけで十分です。
そして結局うちの子が好きなものって?
そうやって育てられた嗜好性ですが、猫にとって匂い>食感>味の順で嗜好性は決まります。
猫の嗅覚上皮の面積は、ヒトがおよそ3~4㎠であるのに対し、21㎠もあります。
つまり猫の嗅覚は特別に発達しているのです。そのため、まずは「匂い」が美味しそうであるかどうかが嗜好性を大きく左右します。
栄養的に優れているフードに好みではない香りがするものと、栄養的には優れていないものの好みの香りがするもの、の2種類を出すと、ほとんどの猫が好みの香りがするものの方を食べます。嗅覚が優先されるということですね。
ただ、この研究には続きがあって、これを長期間続けていると、そのうち好みの香りでなくても栄養的に優れているフードを選択するようになる、ということなのです。感覚的な嗜好性よりも、体を維持するのに必要なものを選択するようになる、ということなのでしょう。興味深い考察です。
猫にとっての秋の味覚は、秋刀魚でしょうか。
旬のものを一緒に食せる、そんな食卓がたまにはあってもいいですね。
Written by
監修医 小林 充子 先生
麻布大学獣医学部を卒業。在学中は国立保険医療科学院のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行う。2010年に目黒区駒場にてキャフェリエペットクリニックを開業。一頭一頭のタイプに合ったオーダーメイドの対応を信条に総合診療を行う。