【column】 猫の「心の病」について 考えてみよう
2023.05.07
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「多頭飼育崩壊」最近、よく耳にする言葉です。
限られた空間に100頭を超える猫たち。狭いケージの中に入れられたままお世話もほとんどされず、繰り返される近親交配。それによって起こる先天性奇形や先天性疾患。
こういう現場からレスキューされた猫たちは、一様に目に光がありません。ケージの中で育った猫たちは、筋肉が発達していないため、普通に歩くことができません。もちろん飛び上がることも。 猫は縄張り意識の強い動物です。
自分のテリトリーが確保されない環境で生活する猫たちは、日々大きなストレスを感じています。そしてそのストレスの積み重ねが心の病へと繋がっていきます。
ご家庭で新しい猫を迎える時も先住猫ちゃんへのケアは十分に行いましょう。その子の性格によっては、家の中で住み分けが必要になることもあるでしょう。
自分のテリトリー内に入ることを許したとしても、飼い主さんの愛情まで譲るつもりはありません。今までと同じように、むしろ今まで以上に愛してあげる必要があります。
3年前、とある多頭飼育現場からレスキューされてきた推定3歳くらいの猫を2頭預かった時のことです。80平米ほどしかない家に150頭の猫がひしめき合い、レスキューされた1/5の猫が妊娠していたという壮絶な現場でした。
1頭は、ちょっとした物音にも飛び上がり、食事の入ったお皿も叩き落とす警戒っぷりでした。もう1頭は、全く覇気がなく、いつも部屋の隅をボーッと見つめる日々。こちらからの呼びかけにもあまり反応せず、体を撫でてあげようと手を伸ばせば、ビクッとして体を小さくして震えるような子でした。
こういった子たちに見られる症状としては、不適切な場所での排尿排便、暗く狭い場所に隠れる、食事を摂らない、攻撃的になる、異常な声で鳴き続ける、過剰なグルーミングをする(その後脱毛になる)などです。
心の病をかける子たちにはどうしてあげればいいのかな?
まずは何と言っても、その病を起こした原因と思われるストレスを排除してあげることですが、ストレスを減らすだけでなく、日常生活をより快適に、充実させることも大切です。
アニマルウェルフェアの国際基準である「5つの自由(5つの柱)」は、猫目線で環境を見直す際の基準になりますので、ご紹介しましょう。
第1の柱:安全で安心できる場所を用意すること
上下運動、外が眺められる場所の確保、箱、キャリー、ベッドなど身を隠せる場所を設置しましょう。
第2の柱:猫にとって重要な必要物資を複数用意し、それぞれ場所を離して設置すること
必要物資とは、トイレ、フード、水、爪研ぎ、おもちゃ、就寝場所などです。多頭飼育の場合、猫の数+1ずつ用意し、それぞれ場所を離して設置しましょう。
第3の柱:遊びや捕食行動の機会を与えること
フードやおもちゃを使って捕食行動を真似た行動をさせましょう。
第4の柱:好意的で猫が予想可能な交流を行い、猫との良好な社会的関係を構築すること
あくまで猫のペース、好むスタイルで交流し、飼い主目線での過干渉はやめましょう。
第5の柱:猫の嗅覚の重要性を尊重した環境を用意すること
猫のいる環境内の匂いに注意し、匂いの強いもの、刺激臭のあるものは使わないこと。猫がマーキングする場所を綺麗にしすぎないようにしましょう。
猫の性格や飼い主さんの生活スタイルに合わせて、彼らが健康で快適に暮らせる環境を作り、愛情を持って(過干渉は禁止ですが!笑)接してあげることが、心身ともに健康で元気に過ごせる秘訣なのです。
Written by
監修医 小林 充子 先生
麻布大学獣医学部を卒業。在学中は国立保険医療科学院のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行う。2010年に目黒区駒場にてキャフェリエペットクリニックを開業。一頭一頭のタイプに合ったオーダーメイドの対応を信条に総合診療を行う。