【column】 犬の「心の病」について 考えてみよう
2023.05.07
|
出会いと別れ、何かと忙しない4月を走り抜け、ホッと息をついたGW後、何となく体がだるくやる気が出ない、いわゆる「五月病」になった経験はありませんか?
五月病は、環境が変わることによるストレスが原因で発症すると言われています。そして、こういった「心の病」は人にのみ起こるものではありません。
犬たちが心の病を発症するきっかけになると思われることは次の4つです。
① コミュニケーション(愛情)不足
② 運動不足
③ 環境の変化
④ 過度なしつけによる暴力行為
家族を取り巻く環境は常に変化していきます。 例えば単身赴任でお父さんがいなくなったり、結婚や留学などで子供が独り立ちして家を出て行ったり、また逆に結婚や出産などで新しい家族が増えたり。そういった変化は少なからず家族間の関係性にも影響を及ぼします。
その度に、犬たちは自分の置かれている立ち位置を見つめ直さねばならず、それがいい方向に向かえばいいですが、いつもそうとも限りません。
散歩の時間や一緒に遊ぶ時間が短くなったり、話しかけられる機会が減って寂しくて注意を惹きたくて、大声で鳴いたり、家具を齧っては怒られる。そんなことの繰り返しが、やがて大きなストレスに発展していきます。そして、その蓄積したストレスが心の病を発症させるのです。
発症しやすい犬種や性別、年齢差は特にないとされていますが、シェルター出身の子や、純血腫 より雑種の方が、また一般的に男の子の方が甘えん坊の傾向があるため、男の子の方に起こりやすい、という意見はあります。
心の病、と言ってもその症状は多岐にわたります。
部屋の隅でブルブル震えたり、パンティング(開口呼吸)がひどくなったり、破壊行動を起こしたり、間断なく吠えたり遠吠えをしたり、突然攻撃的になることもあります。
また、食欲がなくなったり、軟便や下痢が続いたり、不適切な場所での排尿・排便が見られることもあります。
コロナ禍は犬たちにも実に様々な影響を与えました。
感染症初期の頃は外出ができず、散歩ができなくなったり、外で思いっきり遊ぶことができなくなりました。 また1日中家族が全員家にいることで、落ち着いて日中昼寝をする時間が激減しました。
もちろんいつも誰かがいる、ということに大きな安心感を得た子もいると思います。 しかしコロナ禍が明け、家族がコロナ前の日常に戻り始めたことで、今増加傾向にあるのは「分離不安」です。
いつも一緒にいた家族が突然いなくなって、ひとりで留守番することに対して大きな不安とストレスを抱くことで発症します。 分離不安はパニック発作を誘発する可能性があります。パニック発作は恐怖や不安が極限に達した時に起こるので、症状が軽いうちに治療を始めることが肝心です。
心の病にかからないようにするために
このように、心の病は大きな不安や恐怖、ストレスが原因となって発症します。
その症状が重篤(本気で噛み付く、一晩中吠えるなど)な場合には、お薬やサプリメントを使いながら、行動療法を行っていく必要があります。長い時間がかかりますが、犬たちとの信頼関係が回復すれば、いずれ治っていくはずです。
ところで「犬の十戒」をご存知でしょうか?
犬たちは飼い主の言葉を理解できるので、彼らを信じ温かく見守り、叱りすぎることなく、愛情を持って最後の瞬間までそばにいよう、という犬を迎える時の心得を謳った詩です。
犬たちが心身ともに健康でいるために、我々ができること。それはいたってシンプルです。 家族の一員として大きな愛情を持って接すること、犬種の特異性やその子の性格をしっかり把握して、適切な飼い方をすることです。
それが実践できれば、心の病に罹る犬はいなくなることでしょう!
Written by
監修医 小林 充子 先生
麻布大学獣医学部を卒業。在学中は国立保険医療科学院のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行う。2010年に目黒区駒場にてキャフェリエペットクリニックを開業。一頭一頭のタイプに合ったオーダーメイドの対応を信条に総合診療を行う。