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【column】 フィラリア症のススメ

2024.06.03

犬猫通信 for CAT

フィラリア、って一体なに?

猫の飼い主にとって「フィラリア」という言葉自体聞いたことがない方も多いかもしれません。

フィラリアとは犬糸状虫のことで、これが感染することによって起こる寄生虫疾患をフィラリア症、と呼んでいます。

「『犬』糸状虫」であれば、猫は関係ないように思われますが、実は猫にも感染することがわかっています。感染すると慢性的に咳が出たり、突発的に呼吸困難に陥ったり、場合によっては突然死することもある恐ろしい感染症です。

フィラリアは、細く長い乳白色のそうめん状の虫です。フィラリアに感染しているイヌ科の動物の体内で卵から孵(かえ)った幼虫は、その動物を吸血した蚊の体内に血液と共に移行し、そこである程度の大きさまで成長します。そして、蚊が犬を吸血する時にその犬の皮下組織に侵入します。

侵入した幼虫は体内を移動しながら45〜65日で未成熟虫になり、末梢血管に侵入して肺動脈から心臓に移動します。その後、未成熟虫は4〜5ヶ月かけて成熟虫になります。終宿主である犬の場合、未成熟虫のほとんどが成熟虫となり、その後5〜7年生存しますが、非好適終宿主である猫の場合、ほとんどの未成熟虫が肺動脈に到着した直後に死亡します。

万が一成熟虫になったとしてもその数は非常に限られています。 フィラリアは一度感染すると血管内から出ることがないため、犬から犬、猫から猫、犬から猫やその他の動物、犬からヒトへと直接感染することはありません。

ただし、フィラリアに感染している犬の血液を吸血した蚊がフィラリアに感染し、また違う動物を吸血する際にフィラリアの幼虫を感染させる可能性は多分にあります。 もちろん、ヒトが感染することも十分にあり得ます。

ヒトへの感染はディロフィラリア症と呼ばれており、多くはありませんが日本でも発生が見られます。一方で南ヨーロッパの地中海沿い、フランス、スペイン、イタリアあたりではかなりの症例数が報告されています。

ヒトにおけるフィラリア症は、幼虫が肺に移行する場合と、肺以外の皮下、眼、心臓に移行する場合に分かれますが、猫と同じく非好適終宿主であるヒトの体内で成虫になることはありません。



フィラリアに感染すると、どんな症状が見られるの?



猫は基本的にフィラリアの感染に抵抗性がありますが、食欲不振や体重減少、咳や嘔吐下痢、神経症状などが見られることがあります。中でも、慢性の咳、突発的な呼吸困難などが特徴的と言えます。 ただ、時に突然の虚脱、発作、喀血、呼吸困難から死に至るケースも確認されており、油断は禁物です。

フィラリアに感染しているかどうかを検査するには、犬で使用している抗原検査キットを使用することもできますが、感度は50〜85%に止まり、この検査で陰性だったとしてもフィラリア感染を完全に否定できません。胸部レントゲン検査、エコー検査などでさらに検査を進めることが必要です。

万が一フィラリアに感染していることが分かった場合、犬のフィラリア治療に使う薬剤はほとんど使用できません。支持療法としてステロイド剤を使っていきながら、その他に出ている症状に対して対症療法を行っていくしかありません。


予防ってできるの?




猫のフィラリア予防薬としては、マクロライド系という抗生剤のスポット剤が販売されており、毎月1回塗布することでフィラリア症を安全かつ100%予防することができます

予防の期間は蚊が出始めてから30日後までに開始し、蚊が見られなくなって30日後まで行います。 温暖化により、蚊が出始める時期が早くなっていますので、各地域で発表される蚊の飛来情報を確認しながら、予防の期間をかかりつけの先生と相談しましょう。

完全室内飼いでも蚊が家の中に入ってくることは避けられません。一旦感染すると犬のフィラリア症以上に治療が難しいことを考慮すると、徹底的に予防をしていきたいですね。

 

Written by
監修医 小林 充子 先生


麻布大学獣医学部を卒業。在学中は国立保険医療科学院のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行う。2010年に目黒区駒場にてキャフェリエペットクリニックを開業。一頭一頭のタイプに合ったオーダーメイドの対応を信条に総合診療を行う。
 
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