【column】ワクチンや健康診断って本当に必要?
2025.04.11
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うちの子は完全室内飼いだし、他の猫が家に来ることはなし、もちろん猫が集まるような場所に行くこともないからワクチンは打たなくていいですよね?と聞かれることがあります。 でもそれはワクチンを打たなくていい理由にはなりません。
例えばパルボウイルスは、便や吐物と一緒に体外に排出された後、場合によっては数年にも及ぶ長い時間を環境中で生き延びることができます。実際に、飼い主さんの靴底の溝に付着したパルボウイルスがそのまま家の中に持ち込まれ、靴にスリスリしていた猫がそのウイルスを経口摂取してその後発症する、という事例が起こっています。
カリシウイルスはインフルエンザウイルスやコロナウイルスなどと同じく非常に変異株が出やすいウイルスです。1998年、アメリカで今までにないカリシウイルスの強毒株が報告され、世界中に衝撃が走りました。潰瘍性皮膚炎、顔面浮腫、出血、黄疸などの全身症状が起こり、しかも仔猫より成猫の方が重症化しやすく、致死率は50%を超えると言われています。幸い日本での発生はまだ見られませんが、いつ発生してもおかしくないと考えられています。
ではこういった強毒株を3種ワクチンの中に含まれているカリシウイルスの株で発症を防げるかと言われると、残念ながら防ぎきることはできないでしょう。しかし、症状を軽くすることができる可能性はありますし、また何より日本で見られる様々なカリシウイルスの株に対しては効果を発揮します。
猫の3種混合ワクチンにはヘルペスウイルス、カリシウイルス、パルボウイルスが含まれていますが、これらはコアワクチンと言われ、致死率・感染率が高く世界的に重要な感染症で、地域や生活様式に関わらず全ての猫が接種すべきワクチン、と定義されています。それでもワクチン接種に抵抗がある方は、これらのウイルスに対する抗体をどの程度持っているか、検査してみましょう。もちろん十分な抗体を持っていれば、ワクチン接種は必要ありません。
また保護猫で、仔猫の時にヘルペスウイルスやカリシウイルスによる猫風邪の症状が見られた子は、それらのウイルスのキャリアになっている可能性があり、その後の発症を抑えるためにも定期的なワクチン接種が推奨されます。
健康診断を受けた方がいいの?
うちの子はすごく元気で今のところ何も心配がないのだけれど、健康診断は受けた方がいいですか?と聞かれることがよくあります。 若齢で受けるメリットとしては、「その子の標準値」を知ることができる、ということです。どんな検査にも正常範囲というものがありますが、これはあくまで平均値ですので、それがその子にとっての正常範囲かどうかはわかりません。若く健康な時に受けるからこそわかるその子の正常値は後々大変役に立ちます。
また飼い主さんが気付いていないところで病が進行している可能性も否定できません。そういった表面化していない病気を発見したり、今後気を付けておいた方がいいことなどを知ることができます。健康診断では、血液検査、尿検査、便検査、レントゲン検査、エコー検査など様々な検査がありますが、猫種や年齢、生活環境や症状によってどの検査をするのがいいか、かかりつけの先生と相談しながら決めるといいでしょう。
健康診断で何がわかるの?
健康診断でわかること、実はとてもたくさんあります。例えば一般的な血液検査の結果からだけでも、今の食事内容・量は合っているか、足りない栄養素はないか、水分摂取量は十分か、アレルギーの傾向はないか、感染や炎症が起こっていないか、免疫力はあるか、ストレスを感じていないか、などといったことがわかります。
尿検査では、現在の腎臓の状態、水分摂取量、尿路結石や膀胱結石の元となる結晶の有無、潜血反応、などがわかります。自宅での採尿は難しい場合もありますが、採尿できれば猫たちに負担をかけることのない検査ですので、ぜひ定期的に受けて下さい。
うちの子は問題ない、と思っていてもそうではないかもしれない、未病のうちに対策を立て、その子にとってより良い生活環境を整えてあげるために健康診断は定期的に受けることをお勧めします。
Written by
監修医 小林 充子 先生
麻布大学獣医学部を卒業。在学中は国立保険医療科学院のウイルス研究室でSRSV(小型球形ウイルス)の研究を行う。2010年に目黒区駒場にてキャフェリエペットクリニックを開業。一頭一頭のタイプに合ったオーダーメイドの対応を信条に総合診療を行う。